SESの客先面談(顔合わせ)は違法?偽装請負にならない面談の範囲と、聞いてはいけない質問

「面談に落ちたので、この案件はなしで」――SES業界では毎日のように聞かれる言葉です。
客先面談(顔合わせ)を経なければ案件に入れない、という運用は、業界の「当たり前」になっています。

しかし、法律の目で見ると、客先がエンジニアを一人ひとり比べて選ぶほど、その契約は準委任(SES)ではなく「労働者派遣」に近づいていきます。労働局の調査で偽装請負と判断されれば、是正指導を受けるだけでなく、客先が直接雇用を申し込んだとみなされる制度の対象にもなり得ます。

本記事では、SES事業者の契約と労務を支援してきた弁護士・社労士の立場から、客先面談がどこまで許されるのか、面談で提供する個人情報や聞いてはいけない質問、面談に落ちたエンジニアの扱いまでを解説します。

この記事の結論
・客先面談そのものを直接禁止する法律はありません。問題は、面談で客先が個々のエンジニアを選ぶ(指名する・拒否する)ことです。
・準委任・請負では、エンジニアの配置を決めるのは受託者(SES会社)自身でなければなりません(37号告示)。厚生労働省の疑義応答集も、発注者が特定の者を指名したり就業を拒否したりする場合は、適正な請負とは認められないとしています。
・面談の目的を「業務内容の説明」と「体制の確認」に限り、合否の判断を客先にさせない運用にすることが、偽装請負のリスクを下げる基本です。
・スキルシートや顔写真の提供には本人の同意が必要です。本籍・家族・思想信条などの就職差別につながる質問は、客先にもさせないようにします。 ・面談に落ちて待機になったエンジニアにも、会社都合の休業として休業手当の支払いが必要になるのが原則です。

1.客先面談はなぜ問題になるのか

SES(準委任)と労働者派遣の最大の違いは、誰がエンジニアに指示を出し、誰が配置を決めるかです。

項目労働者派遣SES(準委任)・請負
業務の指示派遣先(客先)が直接指示できる受託者(SES会社)が指示する。客先は直接指示できない
エンジニアの選定・配置派遣元が決める。派遣先は派遣労働者を特定する行為をしないよう努める受託者が自ら決める。客先が個人を指名・拒否すると、適正な請負とは認められない
事前の面接派遣先は「派遣労働者を特定することを目的とする行為」をしないよう努める(労働者派遣法26条6項)。紹介予定派遣は例外直接の禁止規定はないが、面談が選考になれば、受託者が配置を決めていないと評価される
必要な許可労働者派遣事業の許可不要(ただし実態が派遣なら、無許可派遣・偽装請負)

派遣ですら、派遣先が事前面接で人を選ぶことは避けるよう求められています。指揮命令を受けないはずのSESで、客先が面談で人を選んでいるとすれば、「実態は派遣ではないか」と疑われるのは自然なことです。

2.法的な根拠:37号告示と疑義応答集

37号告示が求める「配置の決定」

準委任・請負が適正と認められるための基準を定めた「37号告示」は、受託者が自ら行うべきことの一つとして、労働者の配置等の決定・変更を挙げています。どのエンジニアをどの業務に就けるかは、受託者が決めなければならない、ということです。

疑義応答集(第3集)Q7:スキルシートと指名

厚生労働省が2021年9月に公表した疑義応答集(第3集)は、システム開発の場面を取り上げ、発注者が開発担当者のスキルシートの提出を求めることについて、次のような考え方を示しています。

疑義応答集の考え方SESの面談に当てはめると
適正な請負等と認められるには、労働者の配置等の決定・変更を受注者自身が行う必要がある誰を案件に入れるかは、SES会社が決める
発注者が特定の者を指名して業務に従事させたり、特定の者について就業を拒否したりする場合は、適正な請負等とは認められない面談の結果で、客先が「この人は採用、この人は不採用」と決める運用は問題になる
技術力を判断するためにスキルシートの提出を求めること自体は、個人を特定できず、指名や就業の拒否ができないものであれば、直ちに偽装請負とはされない体制の技術水準を確認する目的で、個人を特定しない形の情報を示すことは許される

疑義応答集は面談そのものには触れていませんが、スキルシートについての考え方は、面談にもそのまま当てはまると考えられます。面談が「個人を特定し、指名・拒否する場」になっているかどうかが分かれ目です。

偽装請負と判断されたら

面談だけで偽装請負と判断されることは通常ありませんが、労働局の調査では、指示の出し方、勤怠の管理、要員の選定への客先の関与などを総合して判断されます。面談で客先が人を選び、現場でも客先が直接指示している、という状態がそろえば、偽装請負と判断される可能性は高まります。

その場合、是正指導に加え、客先が直接雇用を申し込んだとみなされる「労働契約申込みみなし制度」の対象にもなり得ます(詳しくは関連記事「偽装請負で是正指導を受けたらどうなる?」をご覧ください)。

3.面談はどこまで許されるか

判定面談の内容・運用理由
許されやすい客先が業務内容・開発環境・作業場所のルールを説明する受託者が業務を引き受けるための情報提供にすぎない
許されやすいSES会社の責任者が同席し、受託する体制(人数・役割・技術水準)を説明する体制を決めているのが受託者であることが明確
許されやすいエンジニアが業務内容について質問し、自分が担当できるかを確認するエンジニアとSES会社が受託の可否を判断する材料になる
グレー客先が技術的な質問をして、エンジニアの技術水準を確認する確認の結果をもとに客先が個人を拒否するなら問題になる。体制の確認にとどめる
グレー「顔合わせ」と称して、事実上は面談の結果で参画の可否が決まる名称ではなく実態で判断される
問題になりやすい複数のSES会社の候補者を並べて面談し、客先が一人を選ぶ客先による個人の選定そのもの
問題になりやすい面談の後、客先が「不合格」と通知し、SES会社が別の人を出し直す客先による就業の拒否に当たる
問題になりやすい客先が人柄・協調性・年齢などで人物を評価する業務の遂行ではなく、採用面接と同じ評価

実務上は、客先から「この人では技術的に難しい」と言われることもあるでしょう。その場合も、客先からは「体制として求める技術水準」を伝えてもらい、誰を配置するかはSES会社が判断するという形を守ることが大切です。

4.面談で提供する個人情報

面談の前に客先に送るスキルシートや、面談で話す経歴は、エンジニア本人の個人情報です。氏名を伏せてイニシャルにしても、年齢・経歴・資格などの組み合わせで本人を特定できれば、個人情報に当たります。

論点注意点
第三者への提供客先にスキルシートを送ることは、個人情報の第三者提供に当たる。原則として本人の同意が必要。入社時に包括的な同意を取り、案件ごとに提出先を本人に伝える運用が安全
提供する範囲業務に必要な技術・経験にとどめる。顔写真、生年月日、住所、家族構成などは原則として不要
個人を特定しない工夫疑義応答集の考え方からも、氏名を伏せ、技術水準を示すことを目的とした形式にするのが望ましい
協力会社から受け取ったスキルシートさらに上位の会社に転送する場合も、本人の同意の範囲内かを確認する
内容の正確さ経験年数やスキルを偽った記載は、経歴詐称として会社と経営者の賠償責任につながる(関連記事「スキルシートの経歴盛り」)

5.客先面談で聞いてはいけない質問

客先面談は採用面接ではありませんが、現実には、客先の担当者がエンジニアの私生活や家族について質問する場面があります。厚生労働省は、採用選考で就職差別につながるおそれがある事項として、次のような事項を挙げています。客先面談でも、これらの質問をさせないようにすることが、エンジニアを守るうえで大切です。

区分例
本人に責任のない事項本籍・出生地、家族(職業・続柄・健康・学歴・収入など)、住宅の状況、生活環境・家庭環境
本来自由であるべき事項宗教、支持政党、人生観・生活信条、尊敬する人物、思想、労働組合などの社会運動、購読している新聞・雑誌・愛読書
選考の方法身元調査、合理的・客観的な必要性のない健康診断

このほか、結婚や出産の予定、容姿に関する発言、性的な冗談などは、ハラスメントに当たるおそれがあります。客先の担当者によるハラスメントであっても、雇用主であるSES会社には、相談への対応や客先への申入れなどの措置が求められます。面談には自社の責任者が同席し、不適切な質問があればその場で止めることを、あらかじめ客先にも伝えておきましょう。

6.面談に落ちたエンジニアの扱い

面談の結果、案件に入れず待機になったエンジニアの扱いも、SES会社にとって悩ましい問題です。

場面扱いの目安
面談に落ちて待機になった会社の都合による休業として、少なくとも平均賃金の60%の休業手当が必要(労働基準法26条)。就業規則や契約の内容によっては、賃金の全額を請求されるおそれもある
待機中に研修・社内業務を命じた休業ではなく通常の勤務となり、通常の賃金の支払いが必要
「案件が決まったら入社」の約束で採用し、面談に落ちた内定がすでに成立していれば、面談の不合格だけを理由とする内定取消は無効になりやすい(関連記事「案件決定を条件とする採用」)
面談に何度も落ち続けるそれだけで解雇の理由にはなりにくい。能力不足が理由なら、研修や配置の工夫を尽くしたかが問われる

面談で人が選ばれる運用を続けるほど、「面談に落ちる→待機→給与の負担」というサイクルが生まれます。面談の運用を見直すことは、偽装請負の対策であると同時に、待機コストを抑える経営の対策でもあります。

7.偽装請負にならない面談の運用ルール

  • 面談の目的を決めて客先と共有する:面談は「業務内容の説明と、受託する体制の確認」の場であり、合否を決める場ではないことを、事前に客先と確認します。
  • 自社の責任者が同席する:体制の説明と質問への回答は、SES会社の責任者が中心になって行います。
  • 個人を比べさせない:複数の候補者を並べて客先に選ばせることはしません。体制はSES会社が決めて提案します。
  • スキルシートは個人を特定しない形にする:氏名・顔写真・生年月日などを外し、技術・経験を中心にします。提供には本人の同意を得ます。
  • 不適切な質問はその場で止める:就職差別につながる質問やハラスメントに当たる発言があれば、責任者がその場で制止し、記録します。
  • 結果の伝え方を決めておく:客先から体制について意見がある場合は、責任者を通じて「求める技術水準」として受け取り、配置の判断はSES会社が行います。

基本契約書に入れたい条項

要員の選定に関する条項の例 第〇条(業務従事者の選定)
1 本業務に従事する者(以下「業務従事者」という。)の選定及び変更は、乙が自らの責任において行う。
2 甲は、本業務の遂行に必要な技術水準その他の要望がある場合には、乙の業務責任者に対して申し入れるものとし、業務従事者を個別に指名し、又はその就業を拒否しないものとする。
3 乙は、甲に業務従事者の情報を提供する場合には、本業務の遂行に必要な範囲に限るものとし、甲は、提供を受けた情報を本業務の目的以外に利用しない。

大手SIerやエンドユーザーのひな形では、逆に「甲は乙の業務従事者の交代を求めることができる」といった条項が入っていることもあります。交代の要求そのものを否定するのは現実的ではありませんが、「業務の遂行に支障がある場合に、乙の業務責任者と協議する」という形に修正を求めると、配置の決定権を受託者に残すことができます。

8.客先面談の運用チェックリスト

☐ 面談の目的が「業務内容の説明と体制の確認」であることを、客先と共有している

☐ 面談には自社の責任者が同席している

☐ 複数の候補者を並べて、客先に選ばせていない

☐ 面談の結果を、客先が「合否」として通知する運用になっていない

☐ スキルシートから氏名・顔写真・生年月日などを外している

☐ スキルシートの提供について、エンジニア本人の同意を得ている

☐ 就職差別につながる質問をさせないことを、客先に伝えている

☐ 面談に落ちて待機になったエンジニアに、休業手当を支払っている

☐ 基本契約書に、業務従事者の選定は受託者が行う旨の条項がある

9.よくある質問

Q. SESの客先面談(顔合わせ)は違法ですか?

A. 面談そのものを直接禁止する法律はありません。ただし、面談で客先が個々のエンジニアを選んだり、就業を拒否したりする運用は、受託者が配置を決めていないと評価され、偽装請負の判断要素になり得ます。

Q. 派遣の「事前面接の禁止」はSESにも適用されますか?

A. 労働者派遣法26条6項は、派遣先に対して派遣労働者を特定する行為をしないよう求める規定で、SES(準委任)に直接適用されるものではありません。ただし、SESでは配置を受託者が自ら決めることが求められるため、客先による選考はむしろ派遣以上に問題になり得ます。

Q. 客先にスキルシートを提出してもよいですか?

A. 技術力を判断するためにスキルシートを提出すること自体は、個人を特定できず、客先が個人を指名したり就業を拒否したりできない形であれば、直ちに偽装請負とはされません(厚生労働省の疑義応答集(第3集)Q7)。提供には本人の同意が必要です。

Q. 面談で客先に「不合格」と言われたら、どうすればよいですか?

A. 客先の意見は、SES会社の責任者が「体制として求める技術水準」として受け取り、誰を配置するかはSES会社が判断する形にします。客先が合否を決める運用が続いている場合は、契約書と運用の見直しをおすすめします。

Q. 面談に落ちて待機になったエンジニアの給料はどうなりますか?

A. 会社の都合による休業として、少なくとも平均賃金の60%の休業手当の支払いが必要です(労働基準法26条)。就業規則や契約の内容によっては、賃金の全額を請求されるおそれもあります。

Q. 客先面談で聞いてはいけない質問はありますか?

A. 本籍・出生地、家族、宗教、支持政党、思想などは、厚生労働省が就職差別につながるおそれがある事項として挙げています。客先面談は採用面接ではありませんが、こうした質問はさせないようにし、自社の責任者が同席して止めることが大切です。

中野弁護士の視点(元IT企業経営者として) IT企業を経営していた頃、客先面談は「営業の勝負どころ」でした。面談に通れば売上が立ち、落ちれば待機コストがかかる。業界全体がその仕組みで回っていることは、身をもって理解しています。 ただ、面談で選ばれる仕組みに頼るほど、SES会社は「人を出すだけの会社」になり、経歴の盛り、待機コスト、偽装請負のリスクを抱え込むことになります。体制を自社で決め、責任者が客先と向き合う会社は、客先から「この会社に任せれば大丈夫」と評価され、結果として単価交渉でも強い立場に立てます。面談の見直しは、法令対応であると同時に、SES会社が「選ばれる側」から「任される側」に変わるための経営判断だと考えています。

まとめ

  • 客先面談そのものを直接禁止する法律はありませんが、客先が個々のエンジニアを指名・拒否する運用は、偽装請負の判断要素になり得ます。
  • 37号告示は、労働者の配置の決定を受託者自身が行うことを求めています。疑義応答集(第3集)Q7も、発注者による指名や就業の拒否を問題としています。
  • 面談の目的を業務内容の説明と体制の確認に限り、自社の責任者が同席し、合否を客先に決めさせない運用が基本です。
  • スキルシートは個人を特定しない形にし、提供には本人の同意を得ます。就職差別につながる質問は客先にもさせないようにします。
  • 面談に落ちて待機になったエンジニアには、原則として休業手当の支払いが必要です。

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当協会の代表理事・中野秀俊は、弁護士・社会保険労務士として、グローウィル国際法律事務所とグローウィル社会保険労務士事務所の代表を務めています。毎年10件以上の労働局調査に立ち会ってきた経験をもとに、客先面談やスキルシートの運用を含めたSES契約の適正化を支援しています。