偽装請負で是正指導を受けたらどうなる?SES会社が最初の30日でやるべきことと「労働契約申込みみなし制度」のリスク

労働局の調査が終わり、しばらくして届いた「是正指導書」。そこには「偽装請負の状態にあると認められるため、是正すること」と書かれ、期限までに是正内容を報告するよう求められている――。当協会には、こうした状況になってから相談に来られるSES事業者が少なくありません。

是正指導を受けると、多くの経営者は「罰金を払えば終わるのか」「取引先に知られたらどうなるのか」「エンジニアに何と説明すればいいのか」と一度に悩みを抱えます。そして見落とされがちなのが、発注者がエンジニアに直接雇用を申し込んだとみなされる「労働契約申込みみなし制度」です。この制度は、SES会社から人材と売上を同時に奪いかねない仕組みです。

本記事では、毎年10件以上の労働局調査に立ち会ってきた弁護士・社労士の立場から、是正指導の意味と行政処分の流れ、指導を受けてから最初の30日でやるべきこと、是正報告書の書き方、そしてみなし制度のリスクと裁判例を解説します。

この記事の結論
・是正指導は「終わり」ではなく期限付きの宿題です。報告の内容と現場の実態がずれていると、次はより重い処分につながります。
・指導を受けたら、事実の調査 → 是正方針の決定 → 取引先・エンジニアへの説明 → 是正報告の順で、30日を目安に動きます。
・偽装請負は、無許可派遣として1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金の対象になり得ます。会社も罰金の対象です。
・偽装請負の状態でエンジニアを受け入れた発注者は、一定の場合にそのエンジニアに直接雇用を申し込んだものとみなされます。エンジニアが承諾すれば、発注者の社員になります。 ・みなし制度は発注者側の大きなリスクのため、指導の事実が伝わると取引の見直しに直結します。是正は「法令対応」であると同時に「取引と人材を守る経営課題」です。

1.是正指導とは何か|行政処分の中での位置づけ

是正指導は「行政指導」の段階

労働局の調査で偽装請負の状態が確認されると、多くの場合、まず是正指導が行われます。是正指導は、違反の状態を改めるよう求める行政指導で、口頭で行われることもあれば、指導書という書面で交付されることもあります。書面の場合は、期限を定めて是正の内容を報告するよう求められるのが一般的です。

是正指導そのものは、罰金のような制裁ではありません。しかし、指導に従わなかったり、報告と実態が違っていたりすると、より重い措置に進みます。行政の対応は、おおむね次のように段階的に強まっていきます。

段階内容SES会社への影響
①調査労働局が書類の確認と、責任者・エンジニアへのヒアリングを行う通報や定期的な監督がきっかけになる
②是正指導違反の状態を改め、期限までに是正内容を報告するよう求めるここで適切に是正できれば、多くは終結する
③再調査是正報告の内容が実行されているかを確認する報告と実態のずれがあれば、悪質と判断されやすい
④命令・勧告・公表派遣許可を持つ事業者には改善命令や事業停止命令、許可の取消しがあり得る。違法な受入れをした発注者は、勧告や企業名の公表の対象になり得る取引先に重大な影響が出て、取引停止につながりやすい
⑤刑事責任悪質な場合は告発され、刑事罰の対象になる会社と担当者の双方が処罰の対象になり得る

偽装請負で問われ得る罰則

偽装請負は、「準委任や請負の形をとった、実態は労働者派遣」の状態です。派遣許可のないSES会社であれば、次の罰則が問題になります。なお、2025年6月施行の改正刑法により、従来の「懲役」は「拘禁刑」に変わっています。

違反根拠罰則(上限)
許可なく労働者派遣事業を行った(無許可派遣)労働者派遣法5条1項・59条1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金
二重派遣など、労働者供給事業に当たる場合職業安定法44条・64条1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金
中間搾取(他人の就業に介入して利益を得る)に当たる場合労働基準法6条・118条1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金

いずれも、違反した担当者だけでなく会社にも罰金が科される「両罰規定」があります。実際には、是正指導の段階で誠実に是正すれば刑事事件に進むことはまれです。ただ、是正指導を受けたということは、行政がすでに「違反がある」と判断しているということです。その後の対応を誤れば、刑事責任まで一直線につながり得る、という認識を持ってください。

2.是正指導を受けたら最初の30日でやるべきこと

是正報告の期限は、指導の内容によって異なります。ここでは30日を目安に、やるべきことを時系列で整理します。大切なのは、報告書を書くことから始めないことです。先に事実を正確に把握し、是正の方針を決めなければ、実態の伴わない報告書になってしまいます。

  • 指導内容の正確な把握(1〜3日目):指導書の写しを確保し、どの案件の、どの行為が、37号告示のどの要件に反すると指摘されたのかを整理します。口頭指導の場合は、担当官の発言をその日のうちに記録します。この段階で弁護士に相談しておくと、以降の判断がぶれません。
  • 事実関係の社内調査(1週目):指摘された案件の契約書、個別契約・注文書、作業指示書、勤怠記録、チャットやメールのやり取りを集め、責任者とエンジニアからヒアリングします。同じ問題が他の案件にもないかを必ず確認してください。再調査では、指摘された案件以外も見られることがあります。
  • 是正方針の決定(2週目):準委任のまま運用を改めるのか、派遣契約や請負に切り替えるのか、取引を終了するのかを決めます(選択肢は次の章で解説します)。
  • 取引先への説明と協議(2〜3週目):発注者・上位会社に、指導の内容と是正の方針を説明し、指示の経路や契約内容の変更を協議します。是正には発注者側の協力が欠かせません。
  • エンジニアへの説明(3週目):現場の運用が変わる理由と、今後のルール(指示は責任者を通す、勤怠は自社に報告するなど)を説明します。不安による離職を防ぐためにも、会社として守る姿勢を示すことが重要です。
  • 是正報告書の提出と運用の定着(期限まで・提出後):是正の内容を報告書にまとめて提出し、その後も報告どおりの運用が続いているかを定期的に点検します。

是正報告書に書くべき項目

項目書き方のポイント
指摘事項の確認指導書の指摘を正確に引用し、対象となった案件・期間を明記する
原因「担当者の認識不足」だけで終わらせず、指示の経路や責任者の配置など、仕組みの問題として書く
是正の内容いつ・誰が・何を変えたかを具体的に書く(例:〇月〇日に作業責任者を選任し、発注者からの指示はすべて責任者経由とした)
再発防止策社内規程、研修、定期点検、他案件への横展開など、継続的な仕組みを書く
裏付け資料変更後の契約書や覚書、責任者の選任書、研修の記録、発注者への通知文などを添付する
注意:報告書だけを整えるのは最も危険です 是正報告書をきれいに書いても、現場の運用が変わっていなければ、再調査で必ず分かります。報告と実態のずれは「是正の意思がない」と評価され、より重い措置の理由になります。また、調査や指導の後に契約書や作業指示書を過去の日付で作り直す、記録を書き換える、といった行為は絶対に避けてください。37号告示の第3条が定めるとおり、形だけを整えた偽装は、それ自体が問題とされます。

3.是正の選択肢|どの形に直すべきか

偽装請負の是正には、大きく4つの選択肢があります。案件の性質と、発注者との関係、自社の体制によって最適な答えは変わります。

選択肢内容向いているケース注意点
①準委任のまま運用を是正指示の経路を責任者経由に改め、勤怠・評価・配置を自社で管理する業務の切り分けができ、発注者も運用変更に協力的な場合発注者の現場担当者まで新しいルールが浸透しないと、元に戻りやすい
②労働者派遣契約に切り替える発注者が直接指示する前提で、派遣として契約し直す発注者の直接指示が業務の性質上どうしても必要な場合派遣許可が必要。許可がなければすぐには切り替えられない。派遣法上の義務(期間制限・待遇確保など)も生じる
③請負(成果物の完成)に切り替える成果物と納期を定め、作業の進め方は自社で決める要件が固まっており、成果物で区切れる開発の場合完成責任と契約不適合責任を負う。見積もりと検収の設計が必要
④取引を終了する契約を終了し、エンジニアを別の案件に配置する発注者が運用変更に応じない場合待機中の賃金負担が生じる。エンジニアの処遇も含めて判断する

最も多いのは①ですが、これは「ルールを決めて終わり」ではありません。発注者の担当者が交代したり、繁忙期に入ったりすると、元の運用に戻りがちです。責任者の役割、発注者からの依頼の受け方、勤怠の報告先を、契約書と現場の両方で固めておく必要があります。

4.労働契約申込みみなし制度とは

制度の仕組み

労働契約申込みみなし制度は、2015年10月に施行された労働者派遣法40条の6に定められた制度です。違法な派遣を受け入れた派遣先(SESでいえば発注者)は、その時点で、受け入れたエンジニアに対して、派遣元(SES会社)での労働条件と同じ条件で労働契約を申し込んだものとみなされます。エンジニアがこれを承諾すれば、発注者とエンジニアの間に労働契約が成立します。

対象となる違法派遣は5つの類型で、SESで問題になるのは主に「偽装請負等」の類型です。

類型内容
①禁止業務への派遣港湾運送業務・建設業務・警備業務など、派遣が禁止されている業務に従事させた
②無許可事業主からの受入れ派遣許可のない事業主から労働者派遣を受け入れた
③事業所単位の期間制限違反派遣先事業所で、派遣可能期間を超えて受け入れた
④個人単位の期間制限違反同じ組織単位で、同じ派遣労働者を3年を超えて受け入れた
⑤偽装請負等派遣法等の適用を免れる目的で、請負その他労働者派遣以外の名目で契約を結び、実態として労働者派遣を受け入れた

押さえておくべき要件と効果

項目内容
「目的」の要件偽装請負等の類型では、発注者に「派遣法等の適用を免れる目的」があることが必要です。この点が他の4類型と異なります
善意無過失の例外発注者が違法派遣に当たることを知らず、知らなかったことに過失もなかった場合は、制度は適用されません
申込みの撤回不可みなされた申込みは、違法な状態が終わった後も1年間は撤回できません。是正した後も、1年間はリスクが残ります
労働契約の成立エンジニアが承諾した時点で、発注者との労働契約が成立します。労働条件は、SES会社での労働条件と同じものになります
行政の関与承諾したエンジニアを発注者が就労させない場合、行政が就労させるよう助言・指導・勧告を行い、勧告に従わなければ企業名が公表されることがあります

裁判例:東リ事件で「目的」が推認された

「目的」の要件は立証が難しく、制度は使いにくいと言われてきました。その流れを変えたのが東リ事件です。床材メーカーの工場で請負会社の労働者が働いていた事案で、一審の神戸地裁(2020年3月13日)は偽装請負に当たらないとしましたが、控訴審の大阪高裁(2021年11月4日)は偽装請負に当たると判断しました。

大阪高裁は、偽装請負の状態が日常的かつ継続的に続いていた場合には、特段の事情がない限り、組織的に法の適用を免れる目的があったと推認できると判断し、偽装請負等の類型でみなし制度による直接雇用の成立を初めて認めました。この判断は、2022年6月7日に最高裁が上告を受理しない決定をしたことで確定しています。

一方で、制度の適用を否定した裁判例も少なくありません。たとえば、エンジニアの承諾があったかを厳格に判断して成立を認めなかった例(日本貨物検数協会事件・名古屋高裁2021年10月12日)や、二重の偽装請負の場合に、エンドの注文主には制度が適用されないとした例(竹中工務店ほか事件・大阪高裁2023年4月20日)があります。判断は事案ごとに分かれていますが、偽装請負を長く放置するほど、「目的あり」と判断されるリスクが高まることは確かです。

5.みなし制度がSES会社にとって怖い3つの理由

みなし制度で直接の責任を負うのは発注者です。しかし、実際に最も大きな損失を受けるのはSES会社であることが少なくありません。

リスク内容
人材の流出エンジニアが承諾すれば、発注者の社員になります。育てたエンジニアと、その案件の売上を同時に失います
取引の打ち切りみなし制度は発注者にとって「意図せず社員が増える」リスクです。指導の事実を知った発注者は、取引の停止や契約の見直しを求めることが多くなります
損害賠償・補償の請求契約書に「法令を順守する」旨の表明保証や補償条項があれば、発注者から損害の補償を求められる可能性があります
多重下請けの「真ん中」の会社は、発注者側にもなります
2次請けとして、3次請けの会社やフリーランスのエンジニアを受け入れ、自社の社員が直接指示を出している――このとき、自社は「偽装請負の受入れ側」です。つまり、受け入れているエンジニアに対して、自社がみなし制度の対象になる可能性があります。上流に対しては「是正する側」、下流に対しては「受け入れる側」として、両面で点検が必要です。

6.発注者から「偽装請負の疑いがある」と言われたら

最近は、労働局の指導より先に、発注者の法務部門から「偽装請負の疑いがある運用を見直したい」と申し入れを受けるケースも増えています。みなし制度を意識した、発注者側のリスク管理です。このとき、SES会社としては次の点を意識して対応してください。

  • 防御的にならず、一緒に是正する姿勢を示す。 発注者の目的は取引を切ることではなく、リスクをなくすことです。是正案を自社から提案できる会社は、むしろ信頼を得られます。
  • 是正の内容を書面で合意する。 指示の経路、責任者の配置、勤怠情報の扱い、会議への参加のルールを覚書などで定めます。
  • 過大な補償条項には注意する。 契約の見直しに合わせて、偽装請負に関する損害をすべてSES会社が負担する条項を求められることがあります。責任の範囲は、発注者側の運用にも原因があることを踏まえて協議してください。
  • 契約形態そのものを見直す機会にする。 発注者の直接指示が欠かせない業務なら、派遣契約や請負への切替えも含めて検討します。

7.再発防止チェックリスト

是正指導を受けた会社も、まだ受けていない会社も、次の項目で自社を点検してください。

体制

☐ 案件ごとに作業責任者を選任し、発注者に書面で通知している

☐ 責任者が不在のときの代理者と連絡の流れを決め、発注者と共有している

☐ 発注者からの依頼・仕様変更は、責任者が受けてエンジニアに指示している

運用

☐ エンジニアの勤怠の報告・承認・休暇の取得は、自社の中で完結している

☐ 発注者による事前面談や、個人を指名する選考をしていない

☐ 発注者の社員がチャットなどでエンジニアに直接作業を割り振っていない

☐ 多重下請けで受け入れているエンジニアに、自社の社員が直接指示を出していない

書面と記録

☐ 契約書・作業指示書に、発注者の指示や勤怠管理を想定させる文言がない

☐ 是正の内容(いつ・誰が・何を変えたか)を記録し、裏付け資料を保管している

☐ 是正後も、半年ごとなど定期的に運用を点検する仕組みがある

中野弁護士の視点(元IT企業経営者として) 是正指導の連絡を受けた経営者が真っ先に気にするのは、「取引先に知られたらどうしよう」ということです。私もIT企業を経営していた頃なら、きっと同じことを考えたと思います。しかし、調査に立ち会ってきた経験から言えるのは、隠そうとした会社ほど、後で取引先との関係をこじらせるということです。 みなし制度がある以上、偽装請負は発注者にとっても自分事です。指導を受けたことを自ら説明し、具体的な是正案を持って協議に臨む会社は、むしろ「この会社なら任せられる」と評価されることがあります。是正指導を、取引先との関係を立て直し、エンジニアが安心して働ける仕組みを作るきっかけにしてください。

まとめ

  • 是正指導は行政指導の段階ですが、報告と実態がずれれば、命令・公表・刑事責任へと進むおそれがあります。
  • 指導を受けたら、報告書を書く前に事実を調査し、是正の方針を決め、取引先とエンジニアに説明することが先です。
  • 是正の方法は、準委任のまま運用を改める、派遣・請負に切り替える、取引を終了する、のいずれかです。
  • 労働契約申込みみなし制度により、偽装請負を受け入れた発注者は、エンジニアに直接雇用を申し込んだとみなされることがあります。東リ事件では、日常的・継続的な偽装請負から「目的」が推認されました。
  • みなし制度は、SES会社にとって人材流出と取引打ち切りのリスクです。多重下請けの中間にいる会社は、受け入れ側としての点検も必要です。

弁護士・社労士への相談はこちら

当協会の代表理事・中野秀俊は、弁護士・社会保険労務士として、グローウィル国際法律事務所とグローウィル社会保険労務士事務所の代表を務めています。50社を超えるSES事業者の適正化を支援し、毎年10件以上の労働局調査に立ち会ってきました。是正指導への対応、是正報告書の作成、取引先との協議、エンジニアへの説明まで、一貫してサポートします。