自宅にいながら受講できるオンライン講座は、コロナ禍を経て一気に一般化し、語学・プログラミング・資格対策・ビジネススキル・コーチングまで、あらゆる分野で新規参入が続いています。初期投資が少なく、場所の制約もないことから、副業として、あるいは本格的な事業として講座提供を始める経営者・担当者の方が増えています。
しかし、「自分の知識やノウハウを動画やライブで提供するだけ」という手軽なイメージとは裏腹に、オンライン講座事業には特定商取引法・景品表示法・消費者契約法・著作権法・個人情報保護法といった複数の法律が同時に関わってきます。知らないうちに表示義務違反や誇大広告、著作権侵害に該当し、行政処分・返金請求・損害賠償・アカウント停止といった深刻なトラブルに発展するケースも少なくありません。
本記事では、オンライン講座事業を運営する経営者・担当者の方に向けて、特に見落とされがちな法的注意点を、実際のトラブルの形とあわせて分かりやすく解説します。事業を安心して成長させるために、まず「どこに落とし穴があるのか」を正しく押さえておきましょう。
なぜオンライン講座事業に法的な注意が必要なのか
オンライン講座は、一見すると「情報やスキルを教えるだけ」のシンプルなビジネスに見えます。しかし法律の世界では、サービスの「実態」に着目して規制が適用されるため、事業者本人が思っている以上に多くのルールが関わってきます。
背景には、大きく三つの事情があります。第一に、消費者トラブルの増加です。「簡単に稼げる」「誰でも合格できる」とうたう講座や高額なオンラインスクールをめぐり、国民生活センターや各地の消費生活センターには解約・返金に関する相談が数多く寄せられています。こうした相談の増加を受け、消費者庁や都道府県は事業者への監視と注意喚起を強めています。
第二に、契約や決済がすべてオンラインで完結するという特性です。対面での説明がない分、広告や申込画面、利用規約の表示内容がそのまま「事業者の説明責任」を果たしたかどうかの判断材料になります。表示が不十分だと、後から「聞いていない」「思っていた内容と違う」という主張を招きやすいのです。
第三に、複数の法律が交錯する複雑さです。契約や解約には特定商取引法が、広告表現には景品表示法や消費者契約法が、講座で使う教材や動画には著作権法が、受講者の情報管理には個人情報保護法が、それぞれ関わります。一つの法律だけを気にしていても、別の法律で足をすくわれることが珍しくありません。
以下では、特に問題となりやすい三つの注意点を取り上げ、それぞれの論点と対策を見ていきます。
注意点①|特定商取引法──「通信販売」と「特定継続的役務提供」の区別
よくあるトラブル
ある事業者が、6か月間・受講料20万円のオンライン資格対策講座をウェブサイトで販売していました。受講者から「思っていた内容と違うので途中でやめて返金してほしい」と求められたものの、規約に「返金不可」と書いていたため断ったところ、「法律上、中途解約できるはずだ」と反論され、消費生活センターを通じたトラブルに発展した——こうしたケースが典型例です。
なぜ問題になるのか──二つの規制が重なる
オンライン講座の販売は、まずインターネットを通じた「通信販売」にあたり、特定商取引法上の表示義務が課されます。事業者名・住所・電話番号・受講料・支払時期・提供方法・返品や解約に関する特約などを明示しなければなりません。この表示を怠れば、指示・業務停止命令といった行政処分の対象になります。
さらに見落とされがちなのが、「特定継続的役務提供」という規制です。特定商取引法は、語学教室・学習塾・パソコン教室など一定のサービスについて、契約期間が2か月を超え、かつ総額が5万円を超える場合に、特別な消費者保護ルールを適用しています。オンラインで提供する語学レッスンや学習指導、パソコン・プログラミング教室などは、その内容によってこの規制に該当する可能性があります。
該当した場合、事業者には契約前・契約後の書面(または電磁的記録)の交付義務が生じ、受講者には書面を受け取った日から8日間のクーリング・オフと、期間中いつでも認められる中途解約権が保障されます。ここが重要なのですが、中途解約の場合、事業者が請求できる損害賠償等の額には、サービスの種類ごとに上限が定められています。役務提供の開始前であれば政令で定める一定額まで、開始後であれば「提供済みの対価+役務ごとに定められた上限額」までしか請求できません。つまり、規約に「返金不可」と書いていても、この法律が適用される限り、その条項は無効となり、受講者は中途解約と一部返金を求めることができるのです。
注意点①への対策
まず、自社の講座が「通信販売」だけの問題なのか、「特定継続的役務提供」にも該当するのかを、期間と金額の観点から確認しましょう。該当する場合は、法定の記載事項を満たした契約書面の交付、クーリング・オフや中途解約の案内を、規約と運用に正しく反映させる必要があります。「返金不可」と一律に定めるのではなく、法律に沿った解約・返金ルールをあらかじめ整備しておくことが、トラブルの深刻化を防ぐ最も確実な方法です。
注意点②|広告表現──景品表示法・消費者契約法と「サブスク」の申込画面
よくあるトラブル
集客のために「受講すれば必ず稼げる」「初心者でも100%合格」といった表現を使っていたところ、実際にはそのような成果が出ず、受講者からの苦情や返金請求につながる。あるいは、月額制講座の申込画面で「初回無料」を強調するあまり、その後の自動継続課金の条件が分かりにくく、「解約できると思わなかった」という相談が相次ぐ——こうしたケースです。
なぜ問題になるのか──誇大広告・断定的判断・定期購入規制
景品表示法は、実際よりも著しく優れていると誤認させる「優良誤認表示」や、取引条件が著しく有利であると誤認させる「有利誤認表示」を禁じています。「必ず稼げる」「絶対に合格」といった断定的な表現は、合理的な根拠がなければ優良誤認に問われ、措置命令や課徴金の対象となり得ます。加えて、2023年10月からは「ステルスマーケティング規制」が施行され、事業者の広告であるにもかかわらず受講生の中立的な感想を装った「体験談」を掲載する行為も不当表示となります。
さらに、勧誘の際に「必ず儲かる」といった断定的判断を提供したり、不利益な事実をあえて告げなかったりした場合には、消費者契約法に基づいて契約を取り消される可能性があります。
月額制・サブスク型の講座で特に注意したいのが、2022年6月に施行された特定商取引法の改正です。継続的な課金をともなう申込みでは、申込みの「最終確認画面」に、分量・金額・支払時期・契約期間・解約方法などを明確に表示することが義務づけられました。ここで消費者を誤認させる表示をすると、行政処分の対象になるだけでなく、その申込みの取消しを認められることがあります。
注意点②への対策
広告表現からは「必ず」「絶対」「100%」といった断定的・誇大な表現を排除し、成果を示す場合は合理的な根拠資料を必ず保管しておきましょう。受講者の声を掲載する際は広告であることを明示し、「個人の感想であり成果を保証するものではない」旨を添えるのが安全です。サブスク型講座では、最終確認画面に契約期間・総額・解約方法を分かりやすく表示し、「いつでも解約できる」と表示する場合は実際にそのとおり運用できる体制を整えることが不可欠です。
注意点③|コンテンツと個人情報──著作権法・個人情報保護法
よくあるトラブル
講座の資料に、ウェブ上で見つけた画像や図表、他社の書籍の一節をそのまま使っていたところ、権利者から警告を受けた。あるいは、外部講師に制作してもらった動画の権利関係を契約で定めていなかったため、講師の退任後にその動画を使い続けてよいのかトラブルになった——コンテンツをめぐる問題も頻発しています。
なぜ問題になるのか──権利の帰属と受講者情報の管理
オンライン講座の中核は「コンテンツ」です。ここで二つの著作権リスクが生じます。一つは、他人の著作物の無断利用です。教育目的であっても、学校などの授業で認められる例外規定が営利のオンライン講座にそのまま及ぶわけではなく、他人の画像・文章・音楽・動画を許諾なく使えば著作権侵害となり、損害賠償や配信停止のリスクを負います。
もう一つは、自社コンテンツの権利帰属です。外部の講師や制作会社に教材・動画を作ってもらう場合、契約で著作権の帰属や利用範囲を明確に定めておかないと、後から「無断で使うな」と主張され、講座そのものが続けられなくなる恐れがあります。あわせて、受講者が講座動画を録画・スクリーンショットし、SNSや他サイトへ無断で二次配布することを防ぐため、利用規約で受講者の禁止事項を明確に定めておくことも重要です。
また、受講者の氏名・連絡先・決済情報・学習履歴などを扱う以上、個人情報保護法への対応も欠かせません。利用目的を特定・公表し、プライバシーポリシーを整備し、安全管理措置を講じる必要があります。決済代行やメール配信など外部サービスに情報を渡す場合は、委託先の監督義務も生じます。
注意点③への対策
教材に使う素材は、自社作成のもの、正規にライセンスを得た素材、権利者の許諾を得たものに限定し、出所を管理しましょう。外部講師や制作会社と契約する際は、著作権の帰属・利用範囲・退任後の取扱いを書面で明確に定めることが必須です。受講規約には録画・再配布の禁止など受講者の遵守事項を盛り込み、あわせてプライバシーポリシーを整備して個人情報の取扱いを適切に開示しておくことが、後のトラブルを大きく減らします。
トラブルを未然に防ぐために経営者が押さえるべき視点
ここまで見てきた三つの注意点に共通するのは、「知識やスキルを提供しているだけ」という事業者の認識と、法律が実態に着目して下す評価との間にギャップがあるという点です。このギャップを埋めることが、リスク管理の出発点になります。
具体的には、次の視点で自社の講座を見直してみてください。
契約期間と金額から見て特定継続的役務提供に該当しないか。返金・解約のルールは法律に沿っているか。
広告に断定的・誇大な表現やステマの要素はないか。サブスク型の申込画面は必要事項を明確に表示しているか。
教材の著作権処理と講師との契約は適切か。受講者の個人情報を適切に管理できているか。
これらのうち一つでも不安が残るのであれば、それはトラブルの芽になり得ます。
法規制はサービス設計・広告・契約・コンテンツのすべてに関わるため、事業を立ち上げてから、あるいは問題が起きてから対応するのでは、多大なコストと信用の毀損をともないます。最も効果的なのは、サービス設計や規約・広告作成の段階で、あらかじめ法的なチェックを受けておくことです。
まとめ|オンライン講座事業のリスクは「事前の設計」で防げる
オンライン講座事業は、参入しやすく成長性の高い魅力的な分野である一方、特定商取引法・景品表示法・消費者契約法・著作権法・個人情報保護法といった複数の規制が同時に適用される、法的に注意を要する領域です。表示義務違反や誇大広告、著作権侵害、返金トラブルは、いずれも事前の設計とルール整備によって大きく回避できるものばかりです。
「自社の講座は特定継続的役務提供に該当するのか」「この広告表現やサブスクの申込画面は問題ないか」「利用規約や講師との契約書は十分か」——こうした疑問を一つでもお持ちであれば、トラブルが表面化する前に、ぜひ専門の弁護士にご相談ください。当事務所では、IT・オンラインビジネスの法規制に精通した弁護士が、サービス設計の段階から規約・広告・契約書のチェック、万一のトラブル対応まで、事業者の立場に立ってサポートいたします。安心して事業を成長させていくために、まずはお気軽にお問い合わせください。