収納代行・決済代行を営んでいると、ある日突然、次のような連絡が入ることがあります。
- 取引銀行から「この入出金について、取引目的をご説明ください」という照会書が届いた
- 警察から「被害届が出ている件でお話を伺いたい」という電話があった
- 見知らぬ弁護士から「貴社に対し、不当利得返還請求をいたします」という通知書が届いた
いずれも、対応を誤れば事業が止まる類の連絡です。そして共通しているのは、「悪いことをしていないのだから、正直に説明すれば分かってもらえるはずだ」という善意の対応が、しばしば最悪の結果を招くという点です。
本記事では、収納代行事業者の経営者に向けて、これら3つの「有事」への具体的な初動対応を解説します。
銀行から連絡が来たときの対処法
銀行からの連絡は「口座凍結の予告」です
収納代行事業者にとって、銀行口座は事業そのものです。口座が止まれば、加盟店への精算も、支払人からの受領もできなくなり、事業は即日停止します。
そして近年、銀行は収納代行事業者に対して極めて厳しい目を向けています。三井住友銀行は公式に注意喚起を出しており、インターネットカジノや、日本では承認されていない海外医薬品の販売、実態のない出会い系サイトなど、違法行為や詐欺につながる取引を日本で行う事業者が、その代金の回収を日本の企業や個人に委託するケースが発生しているとしています。
そのうえで、こういった委託を受けて自身または管理する法人の銀行口座を代金回収に利用した場合、違法行為につながる取引の資金受取に口座が利用されることになるため、その口座を凍結する場合があるとしています。また、正当な取引と違法行為につながる取引の区別ができなくなるため、口座に入る資金の内容について確認できない場合、継続的な取引を断る場合があるとしています。
連絡は3段階で来ます
| 段階 | 銀行からのアクション | 危険度 | 対応の主眼 |
| 第1段階 | 取引目的・資金の流れに関する照会(書面・電話) | 中 | 資料を揃えて誠実かつ正確に回答する |
| 第2段階 | 入出金の制限、送金上限の引き下げ、追加資料の要求 | 高 | 法的整理を添えた説明書を提出する |
| 第3段階 | 口座凍結・強制解約の通知 | 極めて高 | 弁護士による解除交渉/代替口座の確保 |
第1段階の照会を「形式的なものだろう」と軽く扱うことが、最も典型的な失敗です。第1段階の回答内容が、そのまま第2段階以降の判断材料になります。
やってはいけない3つの対応
| ❌ 避けるべき対応 ① 放置する — 回答がないこと自体が「説明できない事業者」という評価に直結します。銀行は回答がない場合、リスク回避側に判断を倒します。 ② 曖昧・抽象的に答える — 「EC事業者の決済代行です」だけでは足りません。銀行が知りたいのは、誰から、どういう原因関係で、いくらを受け取り、誰に、いつ渡しているのか、です。 ③ 資金を別口座に移す — 最も危険な対応です。銀行や捜査機関から見れば資金の隠匿と評価されかねず、組織的犯罪処罰法上のリスクにも直結します。 |
銀行から照会が来たら|初動でやるべき5ステップ
- 回答期限を確認し、必要なら延長を申し入れる(無回答より、期限延長の申し入れのほうがはるかに心証が良い)
- 照会対象の取引を特定する(対象加盟店、対象期間、対象送金を洗い出す)
- 該当加盟店の実態を再調査する(登記、事業実態、サイト内容、ネット上の評判、行政処分歴)
- 資金の流れを図と数字で整理する(誰から誰へ、何の対価か、いつ精算したか)
- 法的整理を添えた回答書を作成する(自社スキームが為替取引に当たらない理由、AML体制、加盟店審査基準を含める)
この5ステップのうち、3と5は自社だけで完結させることが難しい部分です。
特に5は、「事実の説明」ではなく「法的評価の主張」であり、弁護士が関与すべき領域です。
| 中野弁護士の視点(元IT企業経営者として) 銀行から照会が来た経営者の多くは、「うちは何も悪いことをしていないのだから、正直に説明すれば分かってもらえる」と考えます。その感覚は、人としては正しいのです。 しかし、銀行の担当者はあなたの誠実さを審査しているのではなく、自行のマネロン対策体制が金融庁の検査に耐えるかを審査しています。 求められているのは「潔白の訴え」ではなく、「疑わしくないことを裏づける客観資料と法的整理」です。私が企業経営者だった頃、金融機関との交渉で痛感したのはまさにこの点でした。感情ではなく、資料と論理を出す。それだけで結論が変わります。 |
警察から連絡が来たときの対処法
収納代行事業者が問われ得る罪名
「自分は決済を代行しているだけ」という認識でいても、刑事責任を問われるリスクは現実に存在します。近年の摘発事例をご紹介します。
| 【事例1】収納代行事業者のマネロン加担事件(2025年12月) サービスや商品の代金収集を請け負う「収納代行」を名乗り、詐欺の被害金を集めていたグループを警視庁が摘発しました。詐欺グループのマネーロンダリングに加担した疑いがあるとされています。 収納代行は利便性の高い仕組みとして普及する一方、犯罪集団が資金洗浄の隠れみのとして悪用するケースが目立っているとされています。 |
| 【事例2】オンラインカジノ決済代行事件(2023年9月) 警視庁と愛知・福岡両県警の合同捜査本部は、海外のオンラインカジノ運営事業者に客の賭け金を送金していた決済代行業者の2人を、客の賭博行為を手助けしたとして常習賭博幇助の疑いで逮捕しました。同容疑での決済業者の逮捕は初めてとされています。 顧客データには約4万2000人が登録され、サービス停止までに客から数百億円の入金を受け付け、提携していた海外の3つのオンラインカジノ事業者に賭け金の送金などを行い、手数料として21億円余りを受け取っていたとされています。 海外のオンラインカジノ運営事業者の多くは海外の合法ライセンスに基づき運営しているため日本の法律で運営事業者を取り締まることができず、そのため警視庁は国内の決済代行業者の摘発に踏み切ったとされています。 |
この2事例が示すのは、捜査機関が「本体を摘発できないときに、決済を担った日本国内の事業者を摘発する」という構図です。
想定される罪名を整理します。
| 罪名 | 根拠法 | 典型的な場面 |
| 詐欺幇助 | 刑法246条・62条 | 詐欺サイトの代金回収を継続的に担った |
| 常習賭博幇助 | 刑法186条・62条 | オンラインカジノの入出金を代行した |
| 犯罪収益等隠匿・収受罪 | 組織的犯罪処罰法10条・11条 | 犯罪収益と知りつつ受領・移転した |
| 無免許銀行業/無登録資金移動業 | 銀行法・資金決済法 | 登録なく為替取引に該当する行為を業とした |
| 薬機法違反の幇助 | 医薬品医療機器等法 | 未承認医薬品販売サイトの代金回収を担った |
「契約の時点で知っていたか」が分岐点です
特に注意すべきが組織的犯罪処罰法です。同法には例外として「法令上の義務の履行として提供されたものを収受した者」と「契約の時に当該契約に係る債務の履行が犯罪収益等によって行われることの情を知らないでした当該契約に係る債務の履行として提供されたものを収受した者」が除外されています。
しかし逆に言えば、代金の支払いとして受け取った場合であっても、最初から(契約の時から)犯罪から得られた収益で支払いがされることを知っていた場合には、教唆や幇助に当たらなくても犯罪収益の収受の罪に当たる可能性があります。
| だからこそ「加盟店審査の記録」が決定的に重要です 「契約の時点で知っていたか」が刑事責任の分岐点である以上、契約時にどのような審査を行い、何を確認したかの記録が、そのまま防御の中核になります。 審査記録がなければ、「知らなかった」ことを客観的に示す手段がありません。 |
その連絡は「参考人」か「被疑者」か
警察からの最初の接触は、多くの場合「被害届が出ている件でお話を伺いたい」という穏当な形で来ます。しかし実務上、参考人として始まった聴取が、供述内容次第で被疑者聴取に転じることは珍しくありません。
判断が難しいのは、次のような質問が出たときです。
- 「加盟店のことは、どこまでご存じでしたか」
- 「おかしいと思ったことはありませんでしたか」
- 「手数料はどれくらい取っていましたか」
これらはいずれも、故意(情を知っていたか)と利得を確認する質問です。善意で丁寧に答えたつもりの一言が、後に故意を基礎づける供述として調書に残ることがあります。
やってはいけない3つの対応
| 避けるべき対応 ① 資料を廃棄する、関係者と口裏を合わせる — 証拠隠滅・犯人隠避として、それ自体が新たな犯罪になります。また身柄拘束(逮捕・勾留)の最大の理由は「罪証隠滅のおそれ」であり、この行為は逮捕リスクを跳ね上げます。 ② 弁護士を立てずに単独で聴取に応じる — 調書は一度署名すると、後から覆すことが極めて困難です。 ③ 連絡を無視して放置する — 早期の凍結解除を得るためにも、警察からの連絡を待つよりは、積極的に連絡して捜査状況を確認し、捜査に協力する意思を示した方が良いとされています。ただし、逮捕の危険性を回避しつつ負担を軽減するためには、弁護人を付けた上で対応を検討することが勧められます。 |
対応の基本フロー
- 警察の温度感を確認する。ただ単に疑わしいから連絡をしてきたのか、それとも被疑者として事件性がある(と見ている)のか。
- その場で聴取日時を確定させず、「弁護士と相談のうえ折り返す」と伝える(これは正当な対応です)
- 弁護士に依頼し、社内資料を保全する(削除・改変は厳禁)
- 加盟店審査記録・モニタリング記録・契約書を時系列で整理する
- 弁護士同席または事前打合せのうえで聴取に臨む
- 捜索差押えに備え、対応責任者と初動手順を社内で共有しておく
顧客・弁護士から返金依頼が来たときの対処法
誰が、何を根拠に請求してくるのか
収納代行事業者への返金請求は、主に次の3ルートで来ます。
| ルート | 請求者 | 法的根拠 | 特徴 |
| ① 消費者本人 | 購入者・被害者 | 不当利得返還請求(民法703条・704条) | 感情的になりやすく、SNS拡散リスクがある |
| ② 被害者代理人 | 弁護士・認定司法書士 | 不当利得+共同不法行為(民法719条2項の幇助) | 口座凍結要請とセットで来る |
| ③ カード会社 | イシュア/アクワイアラ | 加盟店契約・チャージバック | 精算金からの控除・保証金の没収 |
最も警戒すべきは②です。理由は次項で述べます。
弁護士からの通知は、なぜ危険なのか
弁護士からの受任通知や返金請求書が届いた場合、同時並行で金融機関に口座凍結が要請されている可能性が高いと考えるべきです。
振り込め詐欺救済法3条1項では、「捜査機関等から情報の提供があることその他の事情を勘案して犯罪利用預金口座等である疑いがあると認めるとき」に口座凍結するとされています。そして全銀協ガイドラインでは、この「捜査機関等」に、捜査機関、弁護士会、金融庁および消費生活センターなどの公的機関のほか、弁護士、認定司法書士が該当するとされ、これらから通報があった場合はすみやかに口座凍結を実施するとされています。
他方で、被害者本人から金融機関に対して被害の申し出があった場合は、金融機関の判断がより慎重になり、口座凍結されないことも多々あります。
| 消費者本人からの申し出と、弁護士からの通報では、銀行の動き方がまったく違います さらに凍結の影響は、当該口座だけにとどまりません。振り込め詐欺救済法に基づく手続き以外にも、警察庁作成のいわゆる「凍結口座名義人リスト」に掲載され、他の金融機関の口座の凍結や、新規預金口座の開設謝絶などの措置を受ける場合があります。 このリストに掲載されると、犯罪利用口座のみならず、他の金融機関の口座も凍結され、さらには将来的に新規に預金口座を開設することも困難となる場合が多いとされています。 |
そして放置すれば、事態はさらに悪化します。振り込め詐欺救済法は、預金口座等が犯罪に利用されたと疑うに足りる相当な理由があると金融機関が認めた場合において、当該預金口座等の名義人の権利を消滅させます。つまり、手続きが進行すると、口座残高に対する権利そのものを失います。
しかし、安易に返金するのも危険です
では即座に返金すればよいかというと、そう単純でもありません。
| 危険 | 内容 |
| ① 二重負担 | すでに加盟店へ精算済みの資金を被害者に返金すれば、会社は同じ金額を二度失う。加盟店が飛んでいれば回収は絶望的 |
| ② 責任の自認 | 任意返金の事実は、後続の請求者や捜査機関に対して「自社に返金義務があると認識していた=違法性の認識があった」と主張される材料になり得る |
| ③ 被害者間の不公平 | 同じ加盟店に多数の被害者がいる場合、先に請求してきた1人にだけ全額返金すれば、他の被害者との間で不公平が生じ、後続の紛争を誘発する |
返金請求への3つの選択肢
| 選択肢 | 内容 | 適する場面 | リスク |
| A. 留保・精算停止 | 加盟店への未精算金を留保し、返金原資を確保したうえで対応する | 加盟店の不正が疑われ、未精算残がある | 加盟店から契約違反を主張される可能性 |
| B. 限定的返金 | 責任を認めない前提(非債弁済・和解)で解決金を支払う | 少額であり、早期解決が合理的な場合 | 後続請求を誘発しないよう合意書の設計が必須 |
| C. 争う | 不当利得・共同不法行為の要件を否認し、法的に反論する | 適正な加盟店審査を行い、記録が残っている | 訴訟負担・口座凍結の継続 |
どの選択肢を取るにせよ、鍵を握るのは「加盟店への未精算金が手元にあるか」です。 これがあれば選択肢Aで返金原資を確保できますが、精算済みだと一気に苦しくなります。
返金請求を受けたときの対応フロー
- 回答期限を確認し、期限内に「検討中である」旨の一次回答を返す(無回答は凍結要請を加速させる)
- 当該加盟店への未精算金の有無・金額を即日確認し、必要なら精算を停止する
- 当該加盟店の審査記録・モニタリング記録を保全する
- 同一加盟店に関する他の苦情・返金請求の有無を横断的に洗い出す
- 自社の法的責任の有無を弁護士と整理する(幇助の故意・過失、審査体制の相当性)
- 方針(A/B/C)を決定し、書面で回答する
- 並行して、取引銀行への事前説明を検討する(凍結要請が入る前に、自社の立場を説明しておく)
7番目は、経験上きわめて効果的です。銀行が被害者側からの通報を最初に受け取るのと、自社からの説明を先に受け取っているのとでは、初動の判断が変わります。
| 中野弁護士の視点(元IT企業経営者として) 私が最も多くご相談を受けるのが、まさにこの局面です。「悪質な加盟店を掴んでしまった」 それ自体は、どれだけ審査体制を組んでも完全には防げません。業界の構造上、決済手段を求めてくる事業者の一定割合は、他社で断られた事業者だからです。 問われるのは「悪い加盟店を掴んだか」ではなく、「掴んだと分かった後にどう動いたか」です。 審査記録が残っていて、異常を検知したタイミングで精算を止め、取引を打ち切っていれば、幇助の故意は否定しやすくなります。逆に、苦情が来ても手数料欲しさに取引を続けていた記録が残っていれば、そこが致命傷になります。 経営者として痛いほど分かるのは、「今月の着地」を考えると取引を切る判断が下しにくいということです。しかしその1〜2か月の売上と、会社の存続とを比べれば、答えは明らかです。 この判断を一人で背負わないために、外部の弁護士を入れてください。 |
平時に整備すべき体制|有事対応力は平時で決まります
ここまで述べてきた有事対応は、すべて平時の備えの質に結論が左右されます。以下、最低限のチェックリストです。
4-1. 加盟店審査(KYB)
☐ 登記事項証明書、実質的支配者、事業実態の確認を行っているか
☐ 取扱商材の適法性(薬機法、金商法、賭博、景表法)を確認しているか
☐ 他社で加盟店契約を解除された履歴を確認しているか
☐ 審査の記録を、後日第三者に提示できる形で保存しているか
4-2. モニタリング
☐ チャージバック率・返金率・苦情件数を加盟店別に監視しているか
☐ 異常検知時のエスカレーション基準と決裁権限が明文化されているか
☐ 検知から精算停止までのリードタイムが定められているか
☐ 同一加盟店に関する苦情を横断的に検索できる仕組みがあるか
4-3. 契約条項
☐ 加盟店の表明保証条項(適法性・許認可・反社会的勢力の排除)があるか
☐ 精算金の留保権と相殺権が規定されているか
☐ 無催告解除事由(苦情多発、行政指導、捜査機関の接触等)が規定されているか
☐ 補償条項(加盟店起因の損害を加盟店が負担する旨)があるか
☐ 保証金・デポジットを徴収しているか
4-4. 有事対応の社内体制
☐ 銀行からの照会、警察からの連絡、返金請求それぞれの一次対応責任者が決まっているか
☐ 顧問弁護士への連絡ルートが、担当者レベルまで共有されているか
☐ 決済口座が1行に依存していないか(凍結時の事業継続策)
☐ 資料保全のルール(有事の際に削除・改変を禁止する旨)が周知されているか
まとめ
| 場面 | 最優先アクション | 時間軸 |
| 銀行から照会が来た | 期限内に一次回答。資料と法的整理を添えて説明する | 受領後48時間以内 |
| 警察から連絡が来た | 供述前に弁護士へ相談。資料を保全する | 即時 |
| 弁護士から返金請求が来た | 未精算金の有無を確認。期限内に一次回答を返す | 即日〜数日 |
| 何も起きていない | 加盟店審査記録とモニタリング体制を整備する | 今すぐ |
収納代行は、適正に設計し、適正に運用すれば、社会に不可欠な決済インフラです。しかし、悪意ある事業者に決済手段を貸してしまうリスクは、業界の構造上、完全には排除できません。
だからこそ、「掴んでしまった後にどう動くか」を、平時のうちに決めておくことが、経営者の最大のリスク管理になります。