一般社団法人SES事業適正化協会の代表理事を務める中野は、グローウィル国際法律事務所の代表弁護士でもあります。日々、SES事業者のご相談に回答させて頂いています。
今回は、SES事業におけるクライアントの打ち合わせへの同席や誓約書の提出について回答と解説をしていきます。
SES事業における客先常駐の場合の使用料
質問
SES事業を行う上で、客先常駐のことが多いですが、その中で、クライアントの備品やスペースを使用します。
この場合に、この使用していることに関して、契約書などで規定しておいた方が良いですか?
回答
SES契約などに、クライアントの備品を使用することに関する規定は必要です。SES契約は、原則、以下のようなスキームである必要があります。
- SES事業者の責任と負担で、業務に必要なものを準備し、業務の処理を行う
- SES事業者とそのエンジニアの企画又は専門的な技術若しくは経験で業務を処理する
(1)の場合に、SES事業を行うにあたってに直接必要とされるもの(パソコン、備品)をクライアントから借りる場合には、別途契約が必要です。
これに関しては、SES契約とは別で、契約を巻いておくのがよいのですが、契約書が増えることをクライアント企業が良しとしない場合もありますので、最低限、SES契約の中で、規定しておくことが必要です。
クライアント先の打ち合わせへのエンジニアの同席
質問
クライアントとの打ち合わせ・会議や、クライアントの朝礼に、SES事業者の管理責任者だけでなく派遣されているエンジニアも出席した場合、SESでなく労働者派遣事業となりますか?
回答
SES事業者の管理責任者自身の判断により、派遣されたエンジニアが、同席すること自体はOKです。
つまり、クライアントから直接指示が出ていなければ、派遣されたエンジニアが、打ち合わせ同席することもOKです。
しかし、打ち合わせ等の際、クライアントからの作業の順序や割振りなどの指示がある場合には、指揮命令があったとされてしまう可能性が高いです。
直接の指示は当然ですが、間接的な指示が発生しないようにも注意が必要です。
誓約書の提出
質問
SES業務を行うに当たり、情報漏洩防止のため、クライアントが、派遣エンジニアからSES事業者あての誓約書を提出させ、その写しをクライアントに提出するよう求めることは可能ですか?
また、SES事業者の業務遂行能力の確認のため、派遣エンジニアの職務経歴書を求めたり事前面談を行ったりすることは可能ですか?
回答
クライアントによる派遣エンジニアの選定につながるものでなければ、情報漏洩防止のため、派遣エンジニアのSES事業者あての誓約書の写しを求めてもOKです。
しかし、クライアントが、SES事業者に対し、派遣エンジニアの職務経歴書を求めたり事前面談を行うことは、原則NGです。
また、職務経歴書の提出や事前面談の結果、クライアントが特定エンジニアの指名や拒否をした場合、クライアントが派遣されたエンジニアの配置等の決定及び変更に関与していると判断され、違法となります。
解説
SES事業者は、クライアントが、派遣されたエンジニアの選定することはできません。SES事業の場合は、発注者の依頼は、SES事業者とそのエンジニアの企画又は専門的な技術若しくは経験で業務を処理するであり「業務の委託」だからです。
面接という言葉は使わないものの、事前面談などの名目で行うSES事業者は多くいます。しかし、実際に労働局は、名目は問わず、その違法性を判断します。
事実上面接と同じと判断されれば、当然指摘の対象となります。
派遣エンジニアの職務経歴書を提出を求めることは、エンジニアの選定に関わっているとされてしまう可能性が高いです。
クライアントによる派遣エンジニアの氏名等の事前確認
質問
クライアントの社内セキュリティの関係で、クライアントの施設内に入場する派遣エンジニアの 氏名をあらかじめSES事業者から提出させ、クライアントが確認することは問題がありますか?
回答
クライアントによる請負労働者の選定につながるものでなければ、OKです。
企業における秘密保持の必要性があれば、派遣労働者の氏名をあらかじめクライアントに提出することは大丈夫です。
ただし、SES事業者からクライアントへ派遣エンジニアの氏名等の個人情報を提供する際には、個人情報保護法等に基づく適正な取扱(例えば、派遣エンジニアの了解を得る等)が必要です。