SES事業の調査って、何が行われるの?
法律事務所には、多くのSES事業者からご相談がきます。その中で「労働局から、調査期日の通知がきました」というご相談が数多くあります。
労働局の調査なんて、何回も経験することではないので、すごく不安になることは分かります。代表理事の中野は、これまで、弁護士として、労働局の調査に実際に立ち会ってきました。
そこで、今回は、労働局におけるSES事業の調査の流れを解説します。
労働局から調査が行われるきっかけ
調査のきっかけは、多くの場合がタレコミです。つまり、元従業員やフルーランスの方からの通報が、労働局に入ります。
このタレコミがあると、必ず調査が入ります。行政機関なので、一般の方から通報があると必ず調査しないといけないのです。
その調査では、労働局の需給調整事業部(業務委託や派遣に関する適正運用や偽装請負等をつかさどる部署)が、SES事業の実態について、書類や聞き取り(面談形式)を行うのです。
タレコミの場合には、労働局は事前に通報者から資料・社内文書(マニュアル・メールのやりとりの写しなど)も入手している場合があります。
当日は、まずあらかじめ提出予定の書類の精査・質疑からその後に申告内容に関する質疑を行います。
調査までの流れ
実際の調査(面談)期日までの流れは、以下の通りです。
労働局が面談の日程を通知
通常は、労働局から最初に電話がかかってきます。
内容としては、会社において、面談調査したい。その前に、資料を提出してほしいといった内容です。
その後に、面談に際して、用意してほしい書類一式が記載されています。
また、事前に、業務委託・派遣・出向労働者一覧を労働局に送ることが求められます。
労働局がその中から2、3名をピックアップし、面談当日、対象者の各種書類を元に質問を行います。
この書類は、労働局に提出するものですので、写しを用意しておきましょう!
労働局からの調査当日の質問の内容
では、実際、当日に、労働局からはどのようなことが聞かれるのでしょうか?
これは、ケースごとに異なりますが、概ね、以下のようなことが聞かれます。
1)会社概要
まずは会社概要の確認を行います。ここは、一般的かつ確認的な質問です。
- 事業内容とメインの事業
- 正社員と契約社員の社員の割合は?
- 一般派遣の資格を所持しているかどうか
- 派遣社員の割合
- クライアントからの仕事の受け方
- 作業者は、だれが決めているのか
最後の項目にもある通り、特定の案件ではなく「通常クライアントからどのようなに仕事・作業指示を受けているのですか」といったことが聞かれます。
仕事を取ってくるのは、営業担当者か、事業主自ら仕事を受託するかが通常だと思います。
SES契約では、実際に作業者するものは受注者側で選ぶ必要があります。発注者側が行うことができません。
受託者側(SES事業者側)が選任を行なっているかどうかの確認をしていることが考えられます。
2)特定労働者の実態
会社概要の確認後は、事前に通知された労働者ごとに具体的な質問がされます。ここからは、さらに踏み込んだ質問がされます。
質問のポイントは、「指揮命令」と「労務管理」がどうであったのかということです。
- 特定の案件における発注の経緯
- 当該企業が、受注案件の内容を管理をどうしているか
- 当該案件に下請業者を使っているか
- 就業地はどこにあるのか(客先常駐なのか)
- 社会保険、労働保険に加入しているか否か
- クライアント企業と事前面談などを行っているか
- 行っている場合、いつ、だれが、どんな話をしているのか
- 客先常駐の場合、部署やチームの編成
- 客先のチーム編成を自社で把握しているか
上記の通り、SES契約では、クライアント側による人員の選定はできません。
よって、労働局は、実際の作業者とクライアントとの面談・面接などは必要ないと考えています。
職務経歴書や決定通知書など、クライアント側が選定を行っている事がわかると、派遣法違反とされることが多いです。
指揮命令は、どうなっているのか
また、客先の現場で指揮命令が行われているか否かを確認します。
一番厄介なのは、現場の責任者もいない、仕様書・指示書もないといったものです。
これだと、どうやって、クライアントからの指示なしで、現場作業を行っていたのか、クライアントから直接の指示があったのではないかとを疑われてしまいます。
質問としては、以下のことが考えらます。
- 現場のリーダーは誰か
- 自社、クライアント双方に現場責任者はいるのか
- 現場で直接指揮命令は出ているのか、それとも、現場責任者を経由で行われているか
- 仕様書、指示書はあるのか
- 業務の完了確認の方法
- 仕様変更などがあった場合の対応
- 作業場所の状況(名札やロッカー、常駐先社員との場所は別か、など)
この質問については、正直に話す必要があります。
この調査当日はごまかせても、労働局は、クライアントに対して反面調査を行うことが多いです。
また、作業者本人への聞き取り調査も行われるので、そこで直接の指揮命令が確認された場合には、是正の対象となります。
客先常駐という形態自体は、問題はありません。
労働局のガイドライン等では、クライアント社員と常駐の自社社員とを明確に区別できるような対策が施され、直接指揮などが発生しないよう配慮していることが望ましいとはされています。
労務管理の方法について
また、必ず聞かれるここととしては、労務管理の方法があります。
自社の社員は、自社で労務管理することが大原則です。
例えば、クライアントが出勤・休日に関して管理や許可をしているなどということになれば、派遣法違反などの法律違反と指摘されることがあります。
質問事項としては、次のようなものです。
- 日常的な勤怠管理や休暇の許可は、どのような流れで行われているか
- 遅刻、早退について、誰に連絡をするのか
- クライアントへの報告や許可は必要か
- クライアントに職務経歴書などは出しているのかどうかとその理由/li>
その他の質問事項
上記の質問の他に、自社の採用に関する事項を聞かれることがあります。実際にされた質問は、こちらです。
- SESを行う際の常駐先を事前に説明しているか
- 契約内容を、明示はあるか
- 自社従業員から苦情はあるか
特にクライアント先に常駐することを、面接時にきちんと明示されているかを確認する事が多いです。
調査当日のNG対応
この調査でやっていはいけないのは、事実の隠蔽(書類の改竄・虚偽の回答)です。
事実の隠蔽が明らかになった場合、通常1回目の調査では課されない処罰(罰金)や、社名の公表などの重い処分が下される可能性が高いです。
仮に、調査当日のその場は乗り切ったとしても、後日行われる反面調査や労働者本人への聞き取り調査で、実態が明らかになります。調査当日は事実を伝えるよう心がけましょう。
調査後の対応
この調査自体は2時間ほどで終了します。調査の結果は、是正の有無も併せて1、2ヶ月後に書面で通知されます。
この1、2ヶ月の間に、クライアント側にも調査を行い(反面調査)、是正がある場合は最終的に是正勧告が行われます。