SES契約(準委任)が「請負契約」と判断されてしまう4つのポイント【2021年10月加筆】


SESによる業務委託をしようとする企業間の基本契約書では、個別契約にて「請負」による業務委託もできるよう想定されていることが多くあります。

この場合、任意に「SES(準委任)契約」なのか「請負契約」なのかを選択して行えるものであると考えている企業が多くいらっしゃいますが、実はそうではありません。

特に、SES事業においては、「この契約はSESだったのか請負だったのか」といったトラブルが生じやすくなりますので、どのような場合に「請負契約」となってしまうのかをよく理解しておく必要があります。

今回は、業務委託契約が「請負」と判断されるポイントについて解説をします。

SES(準委任)と請負の違い

業務の一部や全部をまるっと委託する場合、「業務委託」と大きく括られがちですが、この業務委託は次の特徴をもとに「準委任」によるものと「請負」によるもに分けられます。

準委任

  • 契約の目的:業務の処理
  • 受託者の責任:手抜きやミスをしないといった、善管注意義務があ
  • 成果:成果はあっても、完成に責任を負わない(※個別に完成責任を負わせることもできる)

請負

  • 契約の目的:仕事の完成
  • 受託者の責任:契約不適合責任(瑕疵担保責任)があ
  • 成果:完成に責任を負う

SES契約は、通常、準委任による業務委託となります。

SES(準委任)か請負かの最終判断は、「裁判所」

個別契約が、SES(準委任)契約なのか、請負契約なのかが曖昧なまま進んでしまうと、実際はどちらだったのか、というトラブルが発生しやすくなります。

一方は「この契約はSES(準委任)で、定めた時間において作業をしたのだから報酬を払え」となり、もう一方は「この契約は請負だったので、依頼したものが完成していない以上、報酬は払えない」といった具合です。

当事者間で折り合いがつけばよいですが、殆どの場合は、平行線をたどることとなります。

そのような場合には、最終的には裁判により決着をつけることとなりますので、当然、最終的に判断するのは「裁判所」になります。

したがって、双方がどう思っていても、契約の内容や運用の実態などをもとに、第三者が決めることになるのです。

SES(準委任)が「請負」と判断される重要ポイント4つ

過去の判例などから、特に次の4つの事項が、SES(準委任)なのか請負なのかの判断において重要なポイントであるといえます。

①成果物は、「制作したもの」なのか「作業の報告」なのか(契約の目的)

「制作したもの」を成果物として納品するのであれば、契約の目的は当該制作物(=完成物)であり「請負」と判断される可能性が高いといえます。

「作業の報告(作業報告書)」を成果物として納品するのであれば、契約の目的は業務そのものであり「SES(準委任)」であると判断される可能性が高いといえます。

トラブルが発生しないようにするためには、契約書や発注書などに、何を成果として納品するのか、を明確にしておくなどの対応が望ましいといえます。

②成果物に、「契約不適合責任(旧:瑕疵担保責任)」はあるか(完成責任)

「契約不適合責任」が適用される個別契約なのであれば、それは「請負」と判断される可能性が高いといえます。

「契約不適合責任」が適用されない個別契約なのであれば、それは「SES(準委任)」であると判断される可能性が高いといえます。

※ただし、民法改正により2020.4.1以降においては、準委任の業務にも完成責任を負わせることもできるようになりましたので、必ずしも当該条項があったからと言って、「請負」となるわけではないことに注意が必要です。

トラブルが発生しないようにするためには、以下のような対応が望ましいといえます。

  • 基本契約書において、契約不適合責任の対象となる個別契約はどこまでなのかを明確にする(全ての個別なのか、特定の契約のみなのか)
  • 上記に加え、当該個別契約が、その対象であるか否かを明示する

③検収は、「成果物の検査完了後」か「予定作業終了後」か(完成責任)

「成果物の検査完了後」に検収をするのであれば、完成させることが前提となっているので「請負」と判断される可能性が高いといえます。

「予定作業終了後」に検収をするのであれば、完成させることが前提となっていないので「SES(準委任)」であると判断される可能性が高いといえます。

トラブルが発生しないようにするためには、基本契約書において、検収はいつされるのかを明確にする(SESの場合はいつ、請負の場合はいつ、等)などの対応が望ましいといえます。

④成果物の著作権、原始的にはどちらに帰属するのか

成果物に対し、受注者に著作権が発生する場合には「請負」、発注者に著作権が発生する場合には「SES(準委任)」と判断される可能性が高いといえます。

契約書の内容だけでなく、運用実態も判断基準に

上記の点に注意をして契約書を作成したとしても、実態がそれに伴っていなければ、SESが請負、又は、請負がSESと判断されることがあります。

つまり、SES契約として各種書類を完璧に整えたとしても、実態が「請負」といえるような状態なのであれば、「請負」と判断されることがあるということです。

書面の体裁だけを整えるのではなく、運用実態についても、SES契約ならSESとしての運用を、請負契約であれば請負としての運用を行う必要があるのです。

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